人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

4.

「って、一本どころじゃ回復しないでしょ? 枯渇状態で回復薬を飲んだところで回復しないでしょう? 回復薬は、魔力が四分の一以上残っているのが前提。そんな基本的なこと、わからないわけないよね。それに、回復薬だなんてそんな高級なもの、ここにはありません! それに王宮治癒師でない者は、回復薬が使えません」
 これでは、どちらが師で教え子かわからない。
「だが、これでは治癒院は……。王宮へ頼むしかないか?」
「……王宮。義父さん、私だって王宮治癒師だったのよ。今日は私が義父さんの代わりに患者を診るわ」
「駄目に決まっているだろう? ルシアに治癒師の能力があることを知られたら……。お前は、ここで暮らせなくなるかもしれない」
「大丈夫よ。ようは、私が私だってバレなければいいわけでしょ? 王宮から派遣されたとかなんとか言って、以前のように顔と髪を隠せばいけると思うの。ね?」
「……だが」
「お義父さんは、身近で頼れる治癒院を作りたかったわけでしょ? 今日は王宮に行けと言ったら、多分、その人たちは痛みに耐える」
 今まで王宮の治癒院へと足を運べなかった者たちも、ルーファがここに治癒院を開いたことで、適切な治癒を受けられるようになった。
 それなのに、今日は王宮へ行ってくれと言ってしまったら、怪我をした彼らは王宮へは行かず、痛みに耐えるほうを選ぶだろう。
「……そうだな。頼まれてくれるか?」
「もちろん。だけど、お義父さんにはカイルを頼みたいんだけど。カイル、じいじのお世話をしてくれる?」
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