人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第七章:英雄騎士様である『∵』の子のようです

1.

 カーティスは、ルーファが開いたという治癒院へ足を向けていた。心の中には、複雑な感情がくすぶっている。
 彼女への感謝の気持ちと、後ろめたさと、そして喜びと。どの気持ちをどの言葉で伝えるべきか、それすらわからなかった。だけど、まずは彼女に会うべきだろう。
 むしろそうしなければならないと、両親とアーロンから責められた。
 祝賀パーティーでは彼女と顔を合わせたのだ。だけど、肝心のことは伝えられなかった。父王からはへたれクズと言われたが、言い返せなかった。言い返せるだけのことをしていない。
 彼女は恨んでいないだろうか。四年も放っておいてしまった。知らなかったからという理由ですませられる問題でもない。
 ずきりと胸が痛む。
 ルーファの治癒院は、大通りから一本外れた通りにあった。レンガ造りの建物に、白枠の窓が映える。
 植物を思わせるような緑色の扉には金色の叩き金。それをゆっくりと叩きつける。
『はい、どうぞ』
 中から聞こえてきたのは女性の声だった。
 ルーファの治癒院にいる女性といえば、彼女しか思い浮かばない。カーティスの心臓は、早鐘のように打ち付けた。ゆっくりと扉を開ける。
 中にいたのは白い長衣を身にまとい、草色の布で髪を隠し、顔の下半分を覆っている女性。
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