人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「いや、間違いなく俺の子だ。だから、その。少しだけ王宮に預けてもらえないだろうか」
「いやです。カイルは誰にも渡しません」
「ルシア嬢……」
 カランとベルが鳴って扉が開いた。
「ルーファ先生、腰をやっちまった……って、お取り込み中でしたか? あれ? ルーファ先生は?」
 腰を痛めている男がやってきた。身体をくの字に曲げながら、よろよろと歩いている。
「ルーファ先生は体調を崩しまして。私のほうで診ますので、どうぞこちらに」
 カーティスの手を振り切ったルシアは、男を治療室へと案内している。
 そんな彼女の背を見送りながらも、カーティスはどうしようかと考えていた。
 このまま帰るか――。
 しかし、話はまだ中途半端である。彼女はカイルをカーティスの子だと認めてくれない。ルーファはそうであると言っていたし、誰が見てもカーティスとカイルに血のつながりがあるとわかる。
 彼女からカイルを奪いたいわけではない。どちらかというと、ルシアとカイルと暮らしているその場に、自分も交ぜてほしいという気持ちだ。ようは、疎外感があるのだ。
 三年以上も息子の存在を知らず、放っておいた自分が悪いのは十分にわかっている。だからこそ、これからの時間を二人と共に過ごしていきたい。
 となれば、どうしたらよいものか。
 とにかくルシアの仕事が終わるのを待つことに決めた。
 ここで帰ったのであれば、また両親とローランからへたれクズと言われるのが目に見えている。
 治療を終えた男が治療室から出てくると、今度は真っ直ぐに立ってすたすたと歩いていた。
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