人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

「腰はどうしてもくせになってしまいますからね。予防にも努めてくださいね」
「いやぁ。やっぱり王宮治癒師さんは違うなぁ。ルーファ先生よりも、腕がいい」
 がははと男は豪快に笑って、帰っていく。
「……あっ」
 ふたたび静かになった治癒院に、カーティスがいたことに彼女は気づいたようだ。
「まだいたのですか?」
 表情は見えないのに、鈍色の瞳だけが鋭く睨みつけてくる。
「あ、あぁ。もう少し話がしたくて……」
「ですが、見ての通り。私は仕事中なのです」
「そういえば、ルーファが体調を崩したと言っていたな。具合は、悪いのか? ルーファには騎士団も世話になったんだ」
「あ。体調を崩したと言いましても、ただの魔力切れです。お祭りのせいなのかなんなのか、昨日は患者がいつもの倍以上来まして。我々治癒師の魔力も無限ではありませんので、使えばなくなります……。もし、義父に会いに来たというのであれば、無理に帰れともいいませんけども……」
「そうだな。ルーファのことも心配だ。これ以上ここにいると君の仕事の邪魔になるだろうし。ルーファの顔を見たら帰るよ」
 鈍色の目尻が少しだけ下がった。優しく微笑んでいるようにも見える。
「では、こちらに」
 ルシアに促されて、治癒院の奥へと進む。そこには扉があって、隣の建物へと続いているようだった。
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