人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 ルシアはカーティスの横に立つ。
「全部、洗ってくださったんですね。ありがとうございます」
「いや、これくらいはどうってことない。それも寄越せ。ついでに洗う」
 彼女が今持ってきた食器類も奪うと、手早く洗う。 
「手際がいいですね」
 彼女がくすっと笑ったように見えた。
「向こうではよくやっていた」
「団長なのに?」
「それは関係ない」
「王子なのに?」
「オレは騎士としてククトに言っていた。だから、あいつらもそういった目では見ていない」
 それ以上の会話はなかったが、洗い終わった食器は、彼女が拭いて片付けていく。
「あの、殿下……。よかった、お茶でも。私はそろそろ、あちらに戻らなければならないのですが。話があるなら義父を呼んできますので」
「ルシア嬢。俺のことは。その……カーティスと呼んでくれないか? 殿下と呼ばれると、距離を感じる」
「いえいえいえ、めっそうもない。私と殿下はそれくらいの距離があって、当然ですから」
「俺としては、君との距離をもう少し縮めたいのだが……」
「え?」
 カーティスはゴクリと喉を鳴らす。
< 138 / 252 >

この作品をシェア

pagetop