人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 魔力回復薬を使えるのは王宮治癒師のみ。だから、王宮治癒師を辞めたルーファとルシアには使えない。
「それを使ってもよい許可をください。それから回復薬の準備を。あと、できれば魔獣の血を横流ししてもらえると。王宮の治癒院であれば、保管されているはずです」    
「そんなことなら、俺の権力でなんとでもなる」
「あと、もう一つ。お願いがあります」
 ルシアは目の前の『∵』を真っ直ぐに見つめた。
「なんだ」
「カイルのことを……。今、向かいの家に預けてあるのです。できれば、その……祭りの期間中は王宮で見ていただけると……。一気にこれだけの中毒患者が増えたとなれば、これからももっと増えるような気がするのです」
 カイルの面倒を見ながら、治癒行為は難しい。今は向かいの家に預けてはいるが、ルシアがいるのにそれが続くとなら不審がられる。
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