人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

 となればカイルを快く受け入れてくれる人物は、カーティスくらいしかいないだろう。先ほどの彼も言っていたように、王宮に預けるのが一番安全のような気がしてきたのだ。
 たとえ、ルシアの治癒能力が周囲に知られたとしても、カイルだけは守ってもらえる。
「わかった。カイルのことは俺が責任をもって面倒をみるから。悪いが、中毒患者の治療を頼む。俺たちには、どうしようもできない。治癒師だけが頼りなんだ」
「……はい」
 ルシアは、喉の奥から絞り出すような声で返事をした。
 それぞれのやるべきことをするために、慌ただしく動き始める。だが、祭りを楽しんでいる者たちに気づかれてはならない。
 楽しい雰囲気に不安な要素を一滴でも投下すると、それが波紋のように一気に広がりかねないからだ。そうなれば、混乱に陥るだろう。だから、彼らを刺激しないようにと動く必要があった。
 ルシアは急いで治癒院へと戻る。
 ルーファが治療を続けているわりには、待合室の患者の人数が減っていない。むしろ増えている。
 だが、これは仕方のないこと。治療が終わっていないから帰れないのだ。
 それでも症状が軽くなった人の姿はちらほらと見えた。
 ルシアは患者の名前が書いてある名簿を見る。次の人の名を呼び、治癒室へと入れる。
「あぁ。ルシアさん。ルーファ先生はまだ?」
 そう言った彼女の腕の中には、ぐったりとした子どもがいる。
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