人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「そこのベッドに寝かせてください。すぐに治療に入ります。お母さんは、外で待っていてください」
「ルーファ先生は?」
「いいから、外で待っていてください」
 ルシアがピシャリと言い放つと、その勢いに押されたのか、彼女は渋々と部屋を出て行った。
 ベッドで横になっている、ぐったりとした子どもを見下ろす。だが、残念ながら顔が『∵』であるため、顔色は確認できない。指を這わせ、体温や皮膚の様子を感じる。
 口元からは、何か甘いにおいがした。
 ルーファは魔薬中毒と口にしたが、そうではない可能性だってある。他の病気かもしれない。ありとあらゆる可能性を頭の中で考え、症状と病名を照らし合わせていく。
 最後に、体内から魔力を感じないかを確認する。手をかざし、滞っている場所を探る。
「……やっぱり」
 魔薬摂取後、魔力は腹部にたまりやすい。それがじわじわと全身に広がっていくのだ。この子どもから感じる魔力は、やはり腹部が強かった。それでもすでに全身に行き渡っている。
 経口摂取をしてから、だいぶ時間が経っているようだ。そして、少なくとも二度は摂取している。
 ルシアは子どもの腹部に手を当てた。中毒症状を抑えるために、魔力を流し込む。相手から感じる魔力が弱まれば、中毒症状は落ち着いたはず。
 それでも完璧ではない。その後、定期的に解毒薬を飲む必要があるのだが、ここに解毒薬はない。
 解毒薬を作るために必要なのが魔獣の血である。
< 155 / 252 >

この作品をシェア

pagetop