人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「あら、ルシアちゃん。治癒院のほうは落ち着いたのかい?」
「はい。今日はありがとうございました。助かりました」
「こっちもルーファ先生にはいつも助けてもらっているからね。お互いさまよ。それにしても、急にたくさんの患者さんが来られてびっくりしたわよねぇ」
 頬に手を当て、首を傾げる姿は、女子学生のような仕草にも見えるのだが、この婦人はルーファよりも年上だったはず。
「それで、カイルは……」
「あら。さっき、カイルちゃんのお父さんがいらしてね。一緒に帰ったみたいだったけれども、すれ違いになったのかしら?」
「お、お父さんですか?」
「そうそう。カイルちゃんと、お外で遊んでいたら、お父さんがやってきてね。カイルちゃんはお父さんそっくりだったのね。カイルちゃんもなついていたし、どこからどう見てもそっくりだったし。まさか、人さらい……」
 ルシアが不安そうな顔をしたから、婦人も心配になったのだろう。
「い、いえ。カイルの父親です。カイルにそっくりな男の人ですよね」
 となれば、その相手はカーティスしかいない。
「そうよ。カイルちゃんそっくりで、なかなか整った顔立ちの男の子だったわ」
 この婦人から見れば、カーティスは男の子に分類されるようだ。だが、カイルを連れていったのはカーティスで間違いないようだ。
「今日は、本当にありがとうございました」
「いいえ。困ったときはお互いさま。また何かあったら」
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