人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
《いやだ。ルシアのえっち。媚薬から、何を考えていたのかな?》
「な、何も考えていません」
 そうクレメンティに言ってはみたが、あの媚薬の治療方法を教えてくれたのは、やはりクレメンティだった。
 媚薬、つまり性的興奮剤。それを抑え込む治療薬も存在する。だが、あのときの彼は、ルシアが知っている媚薬の症状とは異なっていた。となれば、使われた薬はルシアの知らない薬。変に治療薬を与えて拒絶反応が出てしまえば、昇格試験に間に合わない可能性もあった。
 ――これ、ヤるしかないわね。
 クレメンティの出した答えはそれだった。彼女が言うには、媚薬には『魔薬』が使われているとのこと。だから、治療薬を飲むか、魔法による治療か、もしくは魔力のある者と交わる方法で対応しなければ、最終的には彼が魔力に犯されて死ぬと言う。
 魔薬とは、当時、少し前から巷で噂になっている薬物であった。魔力を高める効果があるが、依存性や致死性が高く、専門家――つまり調薬師や治癒師の指導の元でしか使えない。それが混ぜられた媚薬となれば、魔力のない彼にとっては非常に危険な状態であった。徐々に体内に魔力が蓄積されていく。
 しかし、あのときは治癒室にあれに対応できる薬はなかった。となれば、なんとかして発散させるしかない。治癒魔法を使う方法もあったが、残念ながら当時のルシアにはそれが使えなかった。留守にしていたルーファを待つ方法も考えたが、それでは彼は試験を受けることができない。
 そう考えた結果、ルシアは身体を張ることにした。彼には、昇格試験を受けてもらいたかった。理由はわからないけれど、なんとなく。
『でも、初めてだし……。うまくいくかしら? うん、わかった……やってみる……』
 クレメンティの力を借りて、彼を押し倒したところまでは覚えている。だが、その後クレメンティの声は聞こえなくなったし、主導はすべて彼に握られたような気がする。
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