人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「昨日、お祭りの露店で人気のお菓子を買ってきたんだけど。バタバタしていたからすっかりと忘れていた」
 そのお菓子を、こちらの持ってくる荷物に忍ばせておいたのだ。いつまでこちらにいるかわからないから、食材は向かいの家にゆずってきたし、日持ちしそうなお菓子はトランクの中に入れた。そして、屋台のお菓子は今日か明日にでも食べようと思って、ルシアの鞄の中に。
「今日は疲れましたよね。お茶のお供にどうぞ」
 ルシアが鞄から取り出したクッキーをテーブルに並べる。ふわりと甘い香りが、漂い始める。
「へぇ。クッキーですか。甘くていい香りがしますね。それに、種類も豊富ですね。これが屋台のお菓子とは、もったいないような気もします」
 ホレスが一つ手にした。その様子を、ルーファは鋭い視線で見つめている。
「どうしました? 師匠。そんなにこのお菓子が食べたいのですか?」
 ホレスが口元へ運ぼうとした途端、ルーファは立ち上がりその手をパシンと叩いた。ホレスの手からクッキーが飛んでいった。
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