人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

4.

「このクッキーを食べてはならない」
「お義父さん、どうしたの?」
「この匂い。覚えがないか?」
 ルシアもクッキーを一つつまむ。そして鼻に寄せて、くんくんと匂いを確認する。
「クッキーの甘い匂いだけれど……。中毒患者からも同じような匂いがした、かもしれない」
 ルーファは立ち上がり、床に落ちて少しだけ欠けたクッキーを拾い、手巾に包む。
「ホレス。これを成分分析にかけてもらえないか? 私とルシアの考えは、今、言った通り。もしかしたら、これが魔薬中毒の原因かもしれない」
 突飛な考えかもしれない。それでも原因を突き止めるときは、疑わしい内容を一つ一つ潰していく必要がある。
「師匠は、これに魔薬が使われているとお考えなのですね?」
「ああ、そうだ。お前はどう思う?」
 ホレスももう一つ、別なクッキーを手にする。匂いを嗅ぎ、ほんのひとかけら口に含む。
 そしてもう一つ、今度は色違いのクッキーを手にし、それも同様に匂いを嗅いでからひとかけらだけ食べる。
「師匠の考えに同意します。ですが、すべてのクッキーに含まれているわけではないような気がします。とりあえず、色別にクッキーを成分分析にかけてみましょう。これの上への報告は?」
「結果が出てからでいい。確信もないし証拠もない。その状況で下手に騒ぎ立てるのもよくない。こういう状況だからこそ、確実に動きたい」
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