人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

「チャラチャラしているチャラ男……。あ、チャーリーだチャーリー。チャラ男のチャーリー」
《うわ、ひどい言い方》
「え? そうやって覚えるといいわよって言ったのはクレメンティじゃない」
《そうだっけ?》
「もう」
 文句を言いながらも、クレメンティにいつもの調子が戻ってきたのはよいことでもある。
「それで、チャラ男のチャーリーがどうしたの? クレメンティ、本当にチャラ男と縁があるわね」
《いらないわよ、そんな縁。……それで、そうそう。チャラ男ね》
 チャーリーという名があるのに、二人の中ではチャラ男という呼び名で決まった。
《チャラ男。あいつ相変わらずチャラ男なんだけど。あんな真っ昼間にもかかわらず、怪しい部屋に入っていったのよね。回廊の脇に隠されている隠し扉? っていうの? ああいうところに、ふっと消えた。それに手には、何かの名簿を持っていたような気がする》
「ええ? それって王宮内?」
《う~ん、そうだけど。でも建物は別なのかな? ほら、騎士団の人がいるほうの建物》
 ルシアも治癒師として使っていた建物以外は詳しくないので、その辺はカーティスに確認したほうがいいだろう。そして、クレメンティがその建物内まで行けたということは、少なくともルシアがいた治癒室からは二百メートルしか離れていないはず。
 この二百メートル。意外と距離があって、間にいろんな建物やら部屋もあるのだ。狭いようで広いというのが、半径二百メートルの印象でもある。
《それでね、気になったクレメンティ様はチャラ男の後をついていったわけです。暗くてじめじめした通路をね、チャラ男を見失わないようにと、気をつけながらね》
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