人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 クレメンティは宙で足を組んだ。右手で顎をさすっているが、その右肘は左手でおさえている。
《ねぇねぇ。天才クレメンティ様は、なんとなくわかってしまったのだけれども……》
 自分で自分を天才と言うのも、彼女くらいだろう。
《魔薬中毒の原因がそのクッキーにあったとして。そのクッキーを食べた小さな男の子たちが魔薬中毒に陥っているというわけよね?》
「そう、なるのかな?」
《なんでそんなまどろっこしいことをしているんだろう? つまり、彼らの狙いは小さな男の子……》
「小さな男の子を魔薬中毒にして、どんな得があるのかしら?」
《得っていうか……。その男の子の親にとっては、大変なことよね。自分の子どもが魔薬中毒になっているんだから。助けたいって思うよね?》
「そうね」
 だから今、たくさんの患者が治癒院や治癒室を訪れている。
《たいてい、親ってさ。子どものためにはなんでもすると思わない?》
 それが親心というものなのか。カイルという子がいるから、ルシアもなんとなくわかる。カイルの喜ぶ顔が見たいし、逆にカイルを苦しませたくない。カイルが苦しんでいたら、変わってあげたいと思う。それはカイルが高熱に浮かされたとき、何度もそう思った。
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