人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

 まして治癒能力だって万能ではない。治せるものと治せないものがある。外傷のようなものは、細胞の動きを活性化させ自己の治癒能力を高めてやればいい。だけど、発熱や腹痛など身体の中で何かが起こっているときは、それの原因がわからない限りは治癒魔法があったとしても何もできない。
《つまり……子どもを魔薬中毒にして親を脅すっていうことも可能なわけよね?》
「そうね」
 考えたくはないが、理屈としては可能である。
《魔薬って、調合の仕方によっていろいろと効果とか対象者とか、かわるわよね?》
「そうね……」
《てことは、特定の人にだけ中毒を起こすように調合することも可能なわけよね? 小さな男の子である条件を満たす子、その子があのクッキーを食べたら中毒症状が起こる。そうなれば親は慌てて、子どものためならなんでもする》
 クレメンティが言わんとしていることをルシアは理解した。
「彼らの狙いは、小さな男の子を持つ親ってこと?」
 クレメンティはそれ以上、何も言わない。しっと右手の人差し指を唇の前に当てた。
 だけど「正解、正解」とでも言うかのように、宙をくるくると飛び回っている。
 ふと、部屋の扉が遠慮がちに開く。隙間から、一筋の光が室内に入り込んでくる。
「お義父さん?」
「ルシア……まだ起きていたのか?」
「そうね。ちょっと寝付けなくて……」
 今までクレメンティと話をしていたのだ。
< 197 / 252 >

この作品をシェア

pagetop