人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第十一章:『∵』と『∵』と一緒に捜査にいきます

1.

 コンコンコンコン……コンコンコンコン……。
 扉を叩く音でルシアは目覚めた。室内はまだ薄暗い。日が昇る前の時間帯だろう。
《あ、おはよう。ルシア。誰か来てるよ~》
 クレメンティは室内でおとなしくしていたようだ。昨日、怖い思いをしたのだから、夜中にこっそり探検も諦めたのだろう。
 隣で眠るカイルを起こさないように、ルシアはそっとベッドから下りた。
「はい……」
 寝起きの寝間着姿である。胸元を少しだけおさえながら、扉をそろりと開けた。
「おはようございます、ルシア。ルーファ師匠は、起きていらっしゃいますか?」
 ホレスであった。
「あ、おはようございます。ホレスさん。ちょっと待っててください。まだ、子どもが寝てるので……そこで待っててもらってもいいですか?」
 ルシアは開けた扉の隙間から顔だけ出して、伝えた。
「朝早くからすみません。成分分析の結果が出たもので、いち早く師匠に伝えたくて……」
 そう言ったホレスの目の下にはうっすらと隈ができている。
「ホレスさん、徹夜……?」
「ああ、ですが。師匠に結果を教えたら、少し休ませてもらいますよ。治癒室が開くまではまだまだ時間もありますしね」
 ルシアは急いでルーファが休んでいる隣の部屋へと足を向けた。
 部屋に入った瞬間、やっぱりお酒のにおいが少しだけした。
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