人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「お義父さん、ホレスさんが来てる。起きて」
 ぱっと目を開けて、ルーファは文字通り飛び起きる。着替えもせずに、ルーファも部屋を出て行く。
 ぼそぼそと何かしゃべる声が、扉越しに聞こえた。
 ルーファは戻ってきて、すぐさま着替えをすると、ふたたび部屋を出て行った。
 ルシアもそれにくっついていきたい気分であったが、カイルがまだ寝ている。寝ているからといって、一人だけ部屋に置いていくわけにもいかない。
 もやもやした気分の中、すっかりと目が覚めてしまったルシアは朝の支度を始めた。
 顔を洗って、髪をとかして、アイスグリーンのエプロンワンピースに着替えた。
 いつもであれば朝食の準備をするのだが、カーティスが言うには、食事は部屋まで運んでもらえるとのこと。
 一気に手持ち無沙汰になった。こういうとき、いつもであれば薬を作るのだが、その材料すら手元にはない。
 いつもであればができない。そのもどかしさが高まってくる。
《ルシア。暇そう~》
 そんなルシアを見て喜んでいるのはクレメンティである。くるくると宙を飛び回っている。
《でも、そろそろカイルも起きる時間ね。それまで、私につきあってね》
 昨夜もクレメンティと話をして、いいところでルーファが戻ってきたのだ。
 さすがにルーファのいる前でクレメンティと話をすると、大きな声で独り言を口にする怪しい人間に見える。
「そういえば、昨日。何を話していたんだっけ? チャラ男?」
《チャラ男の話もしたけど、魔薬中毒の件よ。あの露店で買ったクッキー。あれが怪しいんじゃないかって》
「そうだったわね。さっき、成分分析の結果が出たみたい。こんなに朝早く、結果を伝えに来たってことはさ……」
《クロね。真っ黒黒の黒のすけね》
「露店のクッキーって……どうしてかしら? お義父さんが言うには、魔薬中毒になった子って、本人や家族が気づかないうちに魔力持ちっていう子が多いって」
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