人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 そう、ここにいる間だけ。自分自身に言い聞かせる。
「そうか……。では、信頼できる者を手配するから、外に出るときは声をかけてくれ」
「はい」
 そう言われても、ルシアはこれから治癒室に向かわなければならない。昨日の結果も気になる。
「ですが、今日はこれから……」
「わかってる。治癒室に向かうんだろ? カイルはしっかりとこちら側でみているから。ただ、あ~、まぁ。両親と兄たちがあんな感じなんだが……」
「それは仕方ないかと。だって、カイルは可愛いですから」
「カイル、かわいいの?」
 そういう自分が褒められたところだけは、きっちりと聞こえる耳になっているようだ。
「そうよ。カイルは可愛いのよ」
「カイルが可愛すぎて、また陛下とかばあばとかが遊びたいっていうかもしれないけど、大丈夫か?」
「だいじょうぶよ。カイル、へいかもばあばもアーロンもキルアもだいしゅきだもん」
 困ったなとカーティスが呟く。
「どうかしました?」
「そこに俺の名が入ってないのが、悔しい……」
「もう……」
 ルシアはなぜかあきれたような声を出すが、今、この雰囲気が悪いものでもないと感じた。

 食事を終えると、カーティスはカイルを連れて部屋を出て行く。
 結局、ルーファは戻ってこなかったので、ルーファの分の朝食を持って治癒室へを向かった。
 なんとなく中が騒がしいなと、扉の前に立ったときに思ったのだが、扉を叩いて中に入る。
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