人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「では、早速案内しますね」
 お祭りも終盤にさしかかっている。店を閉め始めている露店もちらほらとあるようだが、それでも時間帯によって人はごった返す。王都に住む者だけでなく、地方にいる者たちも足を運ぶからか、この期間は次から次へと人がやってくる。
 となれば、やはり馬車はまだまだ使えない。まして目的地が露店となれば、やはり大通りを徒歩となる。
「すまない、ルシア。はぐれてしまうと困るから……」
 隣を歩くカーティスが手を差し出した。この人混みであれば、彼の言っていることは正論だろう。
 デレクも近くにいるわけだが、だからといって彼と手をつなぎたいかと問われると、ほぼ初対面のような彼とそうしたいとは思わない。
「ルシア嬢。俺のことは気にしないで、どうか団長と手をつないであげてください。団長が言うとおり、ここでルシア嬢を見失ってしまうと、俺たちの責任も問われますので……。それとも俺のほうがよければ、俺の両手はいつでも空いています」
「おい、デレク。調子にのるな」
「あ~、はいはい。すみません。俺は大丈夫ですよ。団長が目立ちますから、すぐにわかります。そういった意味ではルシア嬢も目立ちますけど。だから、見失うことはないとは思うのですが、やっぱり近くにいないと何かあったときに対処はできませんからね」
 デレクの言うことも納得できる。
「では、失礼します」
 ルシアはゆっくりとカーティスの手を握った。少しだけ汗ばんでいる彼の手は、堅くて大きくて、いつもつないでいるカイルの小さな手とは異なる。いつかはカイルもこうなるのかと思うと、少しだけ寂しい気もした。
 すぐに王宮を出てきたから、露店も開き始めたところが多い。準備している露店もあるくらいだ。それでも人は歩いていて、時間が経てば経つほどその人が増えてくる。
「場所は、こちらです」
 いつもの薬草店から、少し進んだ脇道から大通りに出た。そして治癒院に帰る方向とは逆の方向に向かって歩いた。そこで行列を見つけたのだ。
 だが今日は――。
「あれ?」
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