人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

4.

 露店がなかった。
「あららら。おしまいかぁ~」
 同じような場所でそう呟く男性がいた。
「もしかして、ここにあった露店にクッキーを買いにきたのか?」
 カーティスがルシアの手をしっかりと握りしめたまま、初老の男性に声をかけた。
「そうなんだよ。孫が気に入ってね。それで今日も買いにきたのだが。まぁ、お祭りもおしまいだから仕方ないね」
 寂しそうに初老の男は目尻を下げた。
「ちなみに、お孫さんは男の子、女の子。どちらですか?」
 ルシアはおもわず聞いていた。
「女の子だよ。六歳になったところでね。ここのクッキーの赤いのが美味しいと言って、毎日、買いにきていたのだがね」
 あの条件に当てはまらないだけ、よかったのかもしれない。ルシアも小さく息を吐いた。
「そうですか。今日は残念でしたね」
「お嬢ちゃんもね。デートだったんだろ?」
 初老の男は、そう言って微笑んで立ち去っていった。
「デレク。名簿、出せるか?」
 路地に入り、人気のない場所まで移動した。そこでデレクは、祭りの期間中に露店を出す人や店が羅列されている名簿を取り出した。
「あと、団長。ここでは手をつながなくてもいいと思います」
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