人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第十二章:『∵』『∵』『∵』『∵』『∵』『∵』

1.

「……カイルがさらわれた……?」
 ルシアの呟きを、カーティスは聞き逃さなかった。
「カイルがさらわれた? ルシア、それはいったい、どういうことだ?」
 思わず握りしめていた手に力を入れてしまった。「いたっ」と彼女が口にして、カーティスは慌てて力を緩める。
「す、すまない。気が動転した」
「い、いえ……」
 ルシアの顔色が悪い。
「カイルがさらわれたって、どういうことだ?」
「え?」
 鈍色の瞳が泳いでいる。
「誤魔化さなくていい。君のことだから、魔法具とかそういうのを使って、カイルの居場所がわかるんだろう?」
 彼女の唇は震えていた。
「俺は、君がそうやって困っていたら助けになりたい。それにカイルは俺の子でもある。子を守るのは親の義務だと思っている」
 それでも彼女は口を少しだけ開けては閉じた。そこにはためらいがある。
「ルシア嬢。俺が思うに、カイルくんがさらわれたのと、今回の露店の件。まったく関係がないとは思えないんすよね。だから、遠慮なく言っちゃってください。むしろ、早く言ってくれたほうが、こっちとしては動き方が決まるんで助かります」
 デレクの言葉がよかったのかもしれない。ルシアはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「た、多分ですが……カイルがさらわれました……」
「それは、魔法具か何かでわかるのか?」
 カーティスが尋ねると、ルシアの視線が宙をさまよう。何かを見つめるようにして、頷く。
< 225 / 252 >

この作品をシェア

pagetop