人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「では、その魔法具で、カイルがどこにいるかもわかるのか?」
 もう一度、彼女の視線は宙を見た。だがその問いには首を横に振る。
「今、わかるのは……カイルがさらわれた。そして、薬か何かで眠らせられている。それくらいです……」
「わかった。カイルがさらわれたとなれば、王宮も今、それに気がついているだろう。急いで戻る……歩けるか?」
「え?」
「顔色が悪い。カイルが心配なのはわかる。だから、ルシア。君は歩けるか?」
「団長。もう、おぶったほうが早いのでは?」
 デレクの言葉に、カーティスがルシアに背を向けた。
「だ、大丈夫です。歩けます。走れます。はやく、戻りましょう」
 それでもカーティスはルシアが心配だった。気を抜けば今にも倒れてしまうのではないか。
 彼女の手をしっかりと握り、歩き出す。
 王宮へと戻ると、少しだけ騒々しい。やはりカイルがさらわれたという話は本当なのだろう。
 騎士棟へと入るや否や、第一騎士団の団長オーラに呼び止められる。
「カーティス、デレク。いいところに。ちょうど今、お前のところへ行こうとしていたところだ」
 彼はカーティスを騎士として扱うときは、そうやって呼び捨てる。
「俺たちも今、お前たちの協力を頼みたいと思っていたところだ」
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