人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 腰を折ったカーティスは、振り返りもせずに部屋を出た。
 父王の言葉の重みは理解している。それでも、どこにいるかわからないアーロンとカイルは、こちらには想像できないほどの恐怖を味わっているにちがいない。
 そう思って、騎士棟へと向かったカーティスであるのに、すぐさま先ほどの書斎へと戻る羽目になってしまった。
「え、と。殿下?」
 あれだけ格好良くルシアに啖呵を切ったというのに、このざまである。
「俺も関係者だから、捜査から外された……」
 カイルの父親であり、アーロンの弟でもある。関係者というよりは、関係が一番近い身内である。
「そう、なのですね?」
 ルシアは気丈に振る舞っているようだ。キルアと王妃の様子も心配だった。
「あの、殿下……少し相談があるのですが……」
 他の者には聞かれたくないのだろう。ルシアは、皆が集まっているソファから離れた壁際にカーティスを連れ出した。
「どうした?」
「私たちでカイルを探しに行きませんか?」
「な、なにを……」
 声が大きくなりそうだったので、慌てて口を手で押さえた。
「何を言っているんだ?」
「いえ。ただ、カイルとアーロン殿下のことが心配で。私なら、その……魔法具を使って、カイルの居場所がわかるというか、なんというか……」
 そこで彼女の視線は宙を泳ぐ。
「カイルとアーロン殿下がさらわれた理由はわかりませんが……。いつまでも命の保証もあるわけではないですよね……」
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