人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 もう一人、もう一人と、彼らの足元を固めていけばいい。
 その間、カーティスは大きく部屋を見回した。カイルとアーロンを探しているのだろう。
「カイル……兄上!」
「おっと……それ以上、動かないでください。カーティス殿下……」
「……っ!」
 ルシアの魔法が間に合っていない。一人目の足元を固め、二人目に入ろうとしたところ、二人目はそれに気づいてその場から逃げた。
 つまり、一人しか動きを封じ込められていないのだ。間に合わなかった。ルシアもカーティスの隣に並ぶ。
 クレメンティを探ると、彼女はカイルの側でふわふわと浮いていた。
「……フランク。お前が、なぜここにいる……?」
「なぜ? 殿下も面白いことをお聞きになる……。それは、あなた様を次期国王とするためではありませんか」
 カーティスは天を仰いだ。
 フランクと呼ばれた男は、カーティスの知り合いなのだろう。ルシアには『∵』にしか見えない。とにかく、敵側に『∵』が五人いる。
「ここにいる者たちは、私の考えに賛同している者たち……。アーロン殿下より、あなた様のほうが次期国王に相応しいのです」
「……やめろ、フランク。俺は国王の器じゃない」
「ご安心ください。このお方が、あなた様をしっかりと導きますから」
『∵』の言葉に、六人目の『∵』が現れた。
「……やっぱりお前か……宰相メフト……」
「カーティス殿下。自分を卑下なさってはなりません。こんな下半身のゆるい第一王子よりも、あなたのほうが国王に相応しいのです」
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