人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

4.

 絹糸のような銀色の髪。そして金糸雀色の瞳。すっきりとした鼻梁に艶やかな唇。カイルの十数年後の姿が容易に想像できる。
「俺の顔が、わかるのか?」
 小さく頷く。
「カーティス殿下もご存知だったのですか? 私の呪いのこと……」
「ああ、ルーファから聞いた。もしかして、呪いが解けたのか?」
 クレメンティは、あのときダグの魔法によって消滅した。だからもう、彼女の呪いが解けてしまったのだろう。カーティスの顔がはっきりとわかるのも、そのせいにちがいない。
「あの、カーティス殿下……」
「ルシア、すまない。あのとき、君たちを失うかもしれないと思ったら……少し、後悔したことがある……」
「なんですか?」
「俺のことを……カーティスと呼んでほしい。カイルと同じように、カーティーでもいいぞ?」
 今は、そんなことを言えるくらいの状況なのだろう。聞かなくても、カイルが無事であると信じられる。
「やっと、笑ったな」
 彼の手がルシアの頬をなでた。
 そんな顔でそんなことを言われたら、心をさらわれてしまう。
 彼をそう呼んでいいのだろうか。それによって、二人の関係は変わってしまわないだろうか。
「本当は、今すぐにでも求婚したい。だけどそれは、もう少し時と場所を選べと……。だから、この状況でせめて呼び名だけどもと思っているのは、俺のわがままだ」
 少し照れた顔もカイルにそっくりである。
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