人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 手を伸ばしたルシアは、彼の頭をなでた。
「ル、ルシア?」
「カーティス……。私にかけられていた呪いについて、話を聞いてもらえますか?」
 クレメンティを失った寂しさを、彼ならわかってくれるかもしれない。
「もちろんだ。できれば、あのときから今まで、どうやって過ごしていたのかも教えてほしい」
「……はい」
 手触りがよくて、ルシアはいつまでもカーティスの髪をなでている。
「ルシア……」
 彼が熱っぽい瞳で見つめてくる。
「はい……」
 ルシアも答えると、彼の顔が次第に近づいてきた。それが、嫌であるとは感じない。
 目を閉じる。
《ひゃっほー。ルシア、元気?》
「え?」
 突然目を開けて声をあげたルシアに、カーティスは思わず顔を引いた。
《ごっめ~ん、いいところだった? やだ~。カイルパパってかっこいいのね》
「クレメンティ?」
《そうそう、クレメンティ様よ。正真正銘のクレメンティ様》
「どうして? あのとき消されたんじゃ……」
《う~ん、あれより先にカイルが目覚めてくれたから、かな? だからあの魔法に飲み込まれる前に逃げられたというか》
 そう言われると、クレメンティがいなくなった後も、彼らの顔は『∵』のままだった。
《きっと、寝たふりでもしておけと、言われたんじゃない? 命を守るために》
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