人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 その報告も兼ねて治癒室へと向かったら、ルーファがいた。彼は、治癒師をとりまとめている師長でもある。
 彼に、あのときの女性治癒師を尋ねたが、彼女たちを守るための規則だからと言って、名前すら教えてもらえなかった。それ以降、何度か治癒室に足を運んだが、ルーファであったり他の治癒師であったりと、鈍色の瞳の彼女がいるときはなかった。
 そうこうしているうちに、ククトの街への赴任が決まる。
 王宮から離れることは、カーティス自身が望んでいたはずなのに、なぜか彼女のことが気になり、後ろ髪が引かれる思いがした。
 あれから四年。やっとククトの街を魔獣から守る方法を確立させた。街に魔獣を近づけない方策をとったため、街にも活気が戻りつつある。名物の温泉は再開された。
 そんなククトに派遣されたことによって、家族と離ればなれになっていた者も多い。彼らをねぎらいながら、ククトの街を後にし、王都ケラスへと戻ってきた。
 門扉をくぐったときは、感極まって泣き出す者もいた。彼らの帰りをそこで待つ者もいた。本来であればすぐに王宮へと向かいたいところであったが、カーティスはそこで三十分の休憩時間を与えた。
「いやぁ。王都はかわってませんねぇ?」
 呑気な声で、茶髪のデレクが呟いた。彼はカーティスよりも二つ年上だが、第二騎士団の副団長でもあり、カーティスがこの騎士団で最も信頼を寄せている人物でもある。デレクはコニック侯爵の次男でもあって、そういったところにも親近感が沸いた。
「お前は、迎えは来ていないのか?」
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