人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 そのたびにアーロンは気にするなと笑った。
 国王に興味はないとでも意思表示するかのように、十八歳で騎士団に入団したカーティスは、そこでめきめきと実力をつけていく。
 もともとアーロンを守りたいと思っていた彼なのだ。目標があれば、つらい鍛錬にも耐えられる。どうしてもくじけそうになったときは、国王になりたいのか? と自問自答した。もちろん、その答えは否。表に立つよりも裏で牛耳りたい。
 二十歳を過ぎた頃には師団長にもひけをとらない剣技を身につけていた。
 となれば、騎士団の中で妬みを買わないわけがない。身分、年齢、そして才能。どれをとってもそれの対象となりやすい。
 だから、あのとき――騎士団の昇格試験のときに、やられたのだ。あれは完全にカーティスが油断していた。まさか、朝食に媚薬が混ぜられているとは誰も思わないだろう。食堂で皆で食べるものである。カーティスの食事にだけそれを盛ったとすれば、カーティスに近い者かあの食堂で給仕として働いている者か。
 どちらにしろ、カーティスの存在が邪魔だと思った者が背景にいる。 
 それでもすぐに、あの症状に気がついてよかった。他の者に悟られる前に治癒室へと向かい、なんとか治療をしてもらった。
 治療をしてくれた治癒師の名はわからない。女性の治癒師だからだ。彼女は、治癒師の決まりによって、顔も髪も隠していた。覚えているのは鈍色の瞳だけ。
 そしてあの治療後、彼女が「初めて」と呟いていた理由を知った。
(責任を……取らなければ……)
 彼女のおかげで昇格試験は合格。その後、無事、第二騎士団長へと任命された。
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