人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「えぇ……治癒師にも協力してもらいました。なによりも『魔薬』を使うので」
「なるほど……して、協力した治癒師は誰だ? 褒美を取らせねばならぬだろう?」
「あぁ……」
 アーロンの言葉はもっともである。金は支払っていたが、それ以上のものは授けていない。
 やはり、ククトの街を平和の一歩へ導いた功績を考えれば、必要経費の他にも謝礼を贈るべきなのだろうか。
「ルーファですよ。王宮治癒師だった」
「今は、王都で治癒院を開いていたな」
 それはカーティスも知っていた。王宮宛てにルーファの手紙を送ったところ、ルーファは王宮治癒師を辞したと連絡があったからだ。だが、彼は雲隠れしたわけではない。王都のはずれで、民のために治癒院を開いていた。必要であれば国に協力するとのことで、国もそれを認めたのである。
 だからカーティスは、すぐにルーファに連絡を取った。彼は快く承諾してくれた。治癒師として働く傍ら、魔獣避けの薬を開発していたのだ。その開発にかかった期間は三年。ルーファ一人で行っていたため、それだけ時間がかかってしまったようだ。
 治癒師の能力を持つ者は少ない。そして魔獣避けの薬には魔薬を用いる。となれば、信頼のおける者にしかその情報を漏らしたくなかったのだろう。
 その間、ククトの街の近くに魔獣が出れば、騎士団で討伐し、その肉を食料としていた。魔獣といっても、魔力さえ取り除けば獣の一種である。その魔力を取り除くのに、やはり魔薬が必要であった。
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