人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 彼女の白くて小さな指が、目の下に触れた。ヒヤリとした感触によって、背筋にしびれが走った。そのまま彼女の指は頬に触れ、下顎をなぞっていく。
 微かな彼女のシャボンの香りによって、新たな刺激が生まれる。
「くっ……」
 くぐもった声を漏らすと、彼女はぱっと身を引いた。
 正直、そうしてもらったほうが助かる。そろそろ理性と忍耐が弾けそうだった。
「だけど……え、そんな……」
 彼から離れた彼女は、誰かに話しかけるかのようにして、一人でぶつぶつと何かを言葉にしている。
「でも、初めてだし……。うまくいくかしら? うん、わかった……やってみる……」
 何かを決心した彼女と、視線が絡み合った。
「あの……非常に言いにくいのですが……。そちらの媚薬の治療薬は今のところ存在しません。師匠がいれば、治癒魔法でちょろちょろっとできるのですが……。私はあいにく、そちらの治癒魔法が使えないのです。ごめんなさい」
 カーティスは、眉間に深く皺を刻んだ。治療ができなければ、カーティスのカーティスはこの状態のまま。この状態のまま、昇格試験に挑めるわけがない。
「その身体で試験は無理です。使われたのはただの媚薬ではありません。魔力が込められています。魔力のない騎士様は、少しずつその魔力に蝕まれていきます。ようするに、放っておけば死にます」
「くそっ……」
「ですから、私が一肌脱ぎまして、発散させるお手伝いをいたします。私自身も初めてのことですので、不慣れではございますが、何とぞよろしくお願いいたします」
 気がついたときには、カーティスは寝台の上で彼女に押し倒されていた。
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