人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 ルシアはトレイとトングを手にして、パンを取っていく。他にも客は二人ほどいた。場所を譲り合いながら、それぞれが好きなパンを取る。
「うわ。新商品か」
 声と身体から察するに男性だ。『∵』の顔の彼は、新商品と札のある棚にあったパンを三つもトレイに載せていた。
「カイル。こっちの新しいパンも食べる?」
 新商品と言われれば、ルシアだって気になる。カイルが食べたがっていたパンはトレイの上に三つ載せた。カイルとルシアと、そしてルーファの分。何かを買うときは、いつも三つ。
「たべる」
 カイルが答え、ルシアはパンを取る。だが、先ほどから視線を感じる。もしかして、このパンを取りたいのだろうか。
 ルシアは急いで新商品のパンをトレイに三つ載せると「どうぞ」と場所をゆずった。
「あ、すみません。そうじゃないんです」
『∵』の男は、戸惑っているように見えた。
「男の子、ですか?」
 カイルのことを聞いているのだろう。
「かわいいですね。いくつになられたのですか?」
「ありがとうございます。今年で三歳になりました」
「かわった瞳をしていますね」
 それはルシアもずっと思っていたこと。この瞳はルシアには似ていない。
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