人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

 それにルシアの珍しい外見は、瞳の色だけではない。髪の色もそう。一般的には、この国の髪は金、茶系統が多い。そのためか、ルシアが王宮治癒師として働いていたときは、髪もきっちりと隠すようにと、ルーファからはきつく言われていた。顔を隠しても、その髪の色から身元が知られてしまうかもしれないからと心配していた。
「カイルの父親って、どういう人なんだろう……」
 きっと顔は『∵』だろう。そして騎士団に所属する男。わかっているのは、これだけ。
《え、なに? その恋する乙女みたいな顔は》
「そ、そんな顔してないから。それに、会ったって、わかるわけないじゃない。向こうだって、私に気づくはずはないし」
 あれは治癒師としての治療行為だった。だから、治癒師として髪を隠し、顔を隠した。治療行為の間、それも乱れることはなかった。だから彼は、唇に口づける代わりに目尻にやさしく唇を落とした。
 まるで、愛されていると勘違いしてしまうほど、彼はやさしかった。
《やだぁ。ルシア、顔、真っ赤》
 こうやってクレメンティが茶化してくるから、あのときのことを思い出してしまうのだ。
「もう、おしまい」
 ルシアは強制的にこの話を終わらせた。
「それよりも、クレメンティのほうは、何か進展があったの?」
《あるわけないでしょ。昨夜も周囲をぐるぐる回っておしまいよ。でも、ルシアが言っていたことは本当ね。街はお祭りの準備を始めてた……あぁっ!?》
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