人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「しーっ。大きな声を出さないで。カイルが起きちゃう」
《私の声は、カイルには聞こえないわよ。それよりも、ルシアの声のほうが大きいわよ。落ち着きなさいって》
 ルシアの声が大きくなってしまったのは、クレメンティが茶化したのが原因である。じっと彼女を見やった。
「で? 街の様子を見て、何か気になることがあったわけ?」
《そう、そうなの。見たことのない服を着ている人が多かったなって。騎士団が戻ってきたっていうから、その関係かしら……?》
 宙に浮いているクレメンティは、まるでゆったりとソファに座っているかのような格好で、腕と足を組んでいた。
 クレメンティも人の顔が『∵』に見える仲間だ。むしろ、ルシアがそうなったのは彼女のせいでもある。だからクレメンティも、人の声とか体格とか身に着けている者で人を判断する。
「そうなんじゃない?」
《露店の準備も始まってはいたんだけど、あれって誰でも出せるのかしら?》
「どういうこと?」
《だから。見かけない服の人たちも、露店の準備をしていたというか。まぁ、そんな感じよ》
「そんなことって、あり得るのかしら?」
 商売をする者は国に届けを出しているはず。露店も、同じようなものだろう。
 もしかして、お祭りがあるのを聞きつけた他の国の人とか、行商人とか、そういった人たちが露店を出そうとしているのだろうか。それであっても、国への届けは必要だ。
「クレメンティ。ちょっと、外、出てみる?」
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