人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第四章:あの『∵』と運命の再会を果たしました

1.

 カーティスは、口の中に入れようとしていたパンを、おもわずぼろっとこぼした。
「団長、行儀が悪いですよ」
「いやいやいや。お前、今、何を言った?」
「いやぁ。久しぶりにマリのパン屋さんに行った話はしましたよね?」
 むしろ今、食べているパンがマリのパンである。第二騎士団でも、人気のあるパン屋だ。
「そこで、団長そっくりのお子さんに会ったんですよ。団長を知っている人であれば、間違いなく団長の子だってわかるくらいそっくりでした」
 カーティスは目を鋭くした。眉間にしわが寄る。
「その子は、いくつくらいだ?」
「たしか……三歳と言ってました。ですが、三年前では団長はもうククトにいましたもんね。そういや、その子の父親は魔獣に食べられて死んだとか……」
 最近、似たような話を聞いたばかりである。魔獣に襲われて亡くなるのは珍しいことではないが、頻繁にあることでもない。
「その男の子の目。金色だったんですよ。間違いないですよね?」
「残念だが、俺には心当たりがない。三年前となれば、お前も言ったようにククトにいた。その間、俺がどこかの女性と懇ろになった話があったか?」
「ありません。団長はもしかして無反応なのではないかと思われているくらいに、健全でした」
「となれば、俺の子のはずがない……」
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