人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 無反応と言われるくらい、カーティスはククトの街で女性に手を出していない。むしろ、あのときの媚薬の件が尾を引いているのかと思えるくらい、欲がわかなかった。とにかく、健全、安心、安全な男である。
 しかし、金色の目とも言われる金糸雀色の瞳は王族の血を引く者にしか表れない。
「もしかして、父上の隠し子……もしくは、兄上、か?」
「あの国王に隠し子ですか。とうとう団長もお兄さんになったんですね、おめでとうございます」
 呑気にそんなことを言うデレクだが、まず、それはあり得ないだろう。国王が襲われたとあれば別の話だが、とにかく国王である父親は、母親を愛しすぎている。好きすぎて、若干惹かれるくらいに愛している。その父親が、外で不義を働くとは思えない。
「んなわけあるか……」
「冗談ですよ」
 デレクの冗談は冗談に聞こえないから質が悪い。そして自覚がないからもっと悪い。
「てことは、アーロン殿下……? 結婚されて二年でしたっけ? やだ、計算が合う」
 どのような計算をしているかわからないが、可能性として高いのはアーロンのほうだろう。それでもあの兄だ。隠し子がいたとして、すぐにばれるような場所には隠さないはず。それは今、アーロンが置かれている立場上の問題もあるからだ。
「兄上には、聞いてみる……」
 カーティスは残りのパンを、一気に口の中へ押し込んだ。
 喉の奥が痛むのは、今の話のせいなのか、パンを一気に食べたせいなのか。
 その違和感を、紅茶で飲み干した。
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