人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

「ですが、その肝心の相手がわかりません。彼女は治癒師として、顔も髪もきちんと隠していたので」
「どんなときでも規則を守って、まるで女性治癒師の模範のような存在だな。その規則が、ここで仇になるとは……」
 どうしたものか、とアーロンはうなった。
「お前にそっくりな子がこの世に存在するという点は、とりあえず父上に報告する。実際に、お前の子かどうかは、その子を見つけたときに判断すればいい」
「……はい」
「ところでお前は、その治癒師を妻にしたいと望むのか?」
「もちろんです」
 カーティスは即答していた。
「では、関係各所には、お前にそっくりな子を見かけたら報告するように通達する。その母親も丁重に扱えと」
 アーロンの言葉がこれほど心強いと感じたことはなかった。
 カーティスは、心のどこかであのときの治癒師に会いたいと思っていた。責任感からそう願っていたが、今となってはそうではないことに気がつく。
 彼女との間に子がいるかもしれないと知って、心の奥がじんわりとあたたかくなってきたのだ。
 顔も名前も知らない彼女だが、おそらくあのときから惹かれる何かがあった。その何かを確かめたかった。
「とにかく、明日からは祭りが始まる。お前はそれに備えておけ。ククトの街を救った英雄として、人々はお前を崇めるからな」
「それは、俺だけの力によるものではありません。第二騎士団の者、すべてがあの街を救いたいと、そう思ったからです」
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