人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「だが、その第二騎士団をまとめたのがお前だ。お前がまとめたからこそ、こういった結果が得られたのだろう? お前を信頼し、お前についてきてくれた仲間がいたからではないのか?」
「まぁ、そうですけども……」
 アーロンは、ティーポットに残っていた茶を、自らカップに注ぎ入れた。今度はゆっくりと紅茶を飲んでいる。
「とにかく。お前にもそういった女性がいることは喜ぶべきことだ。出会い方はどうであるにせよ、私はお前たちの幸せを願う」
「ありがとうございます」
「しかし、あれだな。お前の相手が王宮治癒師となれば、ルーファに聞けばわかるんじゃないのか?」
「俺だってあのとき。彼女にはいろいろと報告をしたくて、治癒室には何度も足を運んだのです。ですが、タイミングが悪かったのか、それ以降彼女には会えなくて。ルーファに尋ねましたが、規則だといって彼女の素性はいっさい教えてくれませんでした」
「彼女のことで、お前自身、何か覚えていることはないのか? いくら顔と髪を隠していたといっても、すべてが隠れていたわけではないだろう? むしろ、普段は隠しているところも、見たのではないのか?」
 アーロンの言葉であのときのことを思い返す。
 声はハキハキとしていて明るかった。真面目な子なんだろうという印象もある。それよりも――。
「鈍色の瞳をしていました」
「それは、有力な情報だな。この国でその瞳の色は珍しいだろう?」
「そうですね」
「むしろ、その情報があれば彼女にたどりつけたのではないのか? 四年前であっても」
< 66 / 252 >

この作品をシェア

pagetop