人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 ルーファは小さな男の子を抱っこしていた。薄紅色の髪の男の子だ。必死に手を振っている姿が可愛らしい。
「でも俺……あの子に見覚えあるんですよね……。ほら、団長と同じ目の色をしてるじゃないですか。っていうか、団長にそっくりですよね。って、あの子ですよ、マリのパン屋さんで会った子」
 その声を聞いた者たちは、一斉にルーファに視線を向けた。それからルーファが抱っこしている男の子を見る。
「似てる……」
「瓜二つ……」
「そっくりですね、髪の色以外は……」
「てことは、あの子は団長とルーファ先生の隠し子?」
 そんなふざけたことを言うのはデレクしかいない。
「んなわけあるか!」
「暴れないでください」
 お目付役の騎士に注意された二人は、子どものように肩をすくめる。
 だがカーティスは、自分にそっくりの男の子から目を離せずにいた。ルーファはこちらに気づいたようで、抱っこしている男の子の手を取って、手を振るように促している。
 それでも男の子は、機嫌がよくないのか、ぷいっと顔を背けた。
 すると、女性が手を伸ばして男の子を預かる。男の子を抱っこした彼女は、ゆらゆらと揺れながら、男の子の背中をぽんぽんと叩いていた。
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