人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

「もしかして、あの子が団長のお相手?」
「掛け合わせてあの子。あり得ますね」
「髪の色はお母さん、それ以外はお父さんてことですよね。ね? お父さん」
「だから、団長。あの女性は、マリのパン屋さんで会った女性ですって」
 デレクや部下たちの言葉が、右耳から左耳へと通り過ぎていく。
「……間違いない」
 心の中で呟いたつもりだったのに、声に出てしまった。
「彼女だ」
 あの鈍色の瞳。絶対に間違いない。
 ルーファと一緒にいたならば、彼女がルーファの娘なのだろう。間違いなくルーファは知っていたはず。知っていながら教えてくれなかったのだ。四年前は。
「どうしよう、団長が恋する乙女の顔をしている」
 そうやって軽口を叩きながらも、彼らは笑顔を忘れない。そして、手を振り愛嬌を振りまいている。
「聞いてくれ、デレク」
「はいはい。聞いてますよ」
「彼女は、俺の運命なんだ」
「はいはい。それはよかったですね」
「彼女のおかげで、今の俺がある」
「大げさですよ、って団長。自分に子どもがいることすら知らなかったじゃないですか。陛下の隠し子とか、アーロン殿下の隠し子とか、散々言ってましたよね?」
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