人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 デレクがカーティスの首に腕をかけると、キャーと女性の黄色い声があがった。
 デレクも顔はいい。ちょっとだけ中性的なところがあり、そこが特に女性に受けていた。そしてカーティスとじゃれ合うたびに、彼女たちからあたたかな視線が投げられる。
「あの女性とは、お付き合いしていたんですか?」
「していない」
 デレクがカーティスに顔を寄せる。互いに、鼻の先が触れ合うくらいに近づいた。
 また、キャーという悲鳴のような声があがる。
「だが、これから告白をして、彼女になってもらう」
「順番、おかしくないですか? 子ども、どうやって授かったんです? そのときに、告白はしなかったんですか? いくら団長が恋愛沙汰に奥手だと言っても、やることはやりましょう。ってやったから、お子さんがいるわけですね?」
 もはやデレクが何を言っているのか理解ができなかった。いや、理解しようとする気がなかった。
 とにかく彼女と話をしたい。あのときの礼を言いたい。
 長時間に及ぶパレードであるため、途中で休憩が入る。
 カーティスはフランクを探した。フランクは、パーティーで一曲くらい誰かと踊るようにと言っていた。もう、その誰かは彼女しかいない。
「フランク」
「どうしました? お手洗いは向こうです」
「違う、そうじゃない。パーティーで一緒に踊りたい女性がいるんだが……」
「殿下自らそのような女性と出会えたことを嬉しく思います。殿下は騎士団長の地位がおありですが、王子という立場もございますので。それで、どちらのご令嬢ですか? 入場も一緒になさいますか?」
「ルーファ……だ」
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