人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「まあ、いいから。カイルのことは気にするな」
「まま、いってらっしゃい。まま、もっと、おどっていいよ」
「ええ?」
 カイルにそう言われたことが、一番ショックだったかもしれない。
「じいじと、ケーキ、たべてる」
 ルシアが側にいると、ケーキが食べられないとでも思ったにちがいない。
「ルーファ。ルシア嬢を借りる」
「え、ちょ。ま……」
 カーティスはルシアの腕をつかむと、ずんずんと歩いていく。彼は人を避けて歩くのがうまい。それでも、視線が突き刺さるような思いをした。
 あからさまに、視線を集めている。カーティスは気にしていないようだが、ルシアは気にする。彼はこういった視線になれているのかもしれないが、ルシアは慣れていない。
 大きな硝子の扉が開け放たれ、バルコニーへと出た。外は闇に包まれており、空には星が輝いている。
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