人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

 王宮から見下ろす町並みは、大通りを中心に灯りがともっていた。
「うわぁ。露店は夜でもやっているんですね」
 無意識的に、そう声が漏れた。
「ああ。露店は早いところでは朝の八時時からやっているし、夜も十時くらいまでやっている」
「へぇ」
 初めて目にする風景は、興味深い。
 そういえば、王宮治癒師として王宮にいたときですら、こうやって町並みを見下ろしたことはなかった。人目に触れないよう、治癒室と私室を行ったり来たりしていた。それだって、女性治癒師の私室は治癒室に近く、不用意に外には出られないようになっているのだ。
 外に出るときは、治癒室の地下からつながる地下通路を抜け、治癒師である痕跡を残さないような格好をする必要があった。となれば面倒くさい。だから、外には出ない。
 そんな生活ではあったが、悪くはなかった。あの頃は、治癒師として覚えることもたくさんあったし、それによって充実していた。
「あ、あれはなんですか?」
「あれ? どれだ?」
 バルコニーの手すりから身を乗り出して、ルシアはひときわ明るい場所を指さした。
「あの。大通りの先にあって、その右側の……灯りの色がいろいろとかわってるじゃないですか。今は、赤、あ、緑……」
「あぁ。あそこには舞台がある」
「舞台?」
「そう、屋外にある舞台だ。祭りのために作られた。そこで、街の人がいろいろ演じているんだ。踊ったり歌ったり、披露しているんだ」「そんな催しものがあるんですね。見てみたいなぁ。あ、カイルを連れていったら、喜ぶかな」
 クスクスと笑い声が聞こえる。もちろん、この笑い声の主はカーティスである。
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