人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「どうかされました? 私、何かおかしいこと言いました?」
「いや。ルシア嬢は、本当にカイルくんのことが好きなんだな、と。そう思っただけだ」
「まぁ、私の子ですから。大変だなって思うときもありますが、いてくれてよかったなって思います」
「そ、そうか……」
 カーティスは二人で話をしたいと言っていたが、こんな話をしたかったのだろうか。それに、先ほどから口調もおかしいような気がする。
「あの……ところでお話とは?」
「あ、あぁ」
 夜風が心地よい。この国は年中穏やかな気候で、朝晩の気温差も少ない。人の熱気によって高まった大広間から外に出ると、少しだけひやっとする程度。夜会用のドレスで外にいても、寒くはなかった。
「カイルくんの父親だが……」
 カーティスは先ほどもその話題を口にした。そんなにカイルの父親が気になるのだろうか。
 カイルの本当の父親は騎士である。だが、それ以上のことは知らない。生きているのか、死んでいるのかさえも知らない。もしかしたら、本当に魔獣に襲われて死んでいるかもしれない。
「騎士団の中にはいなかっただろうか……」
「え?」
 魔獣に襲われたと言ったから、そう思ったのだろうか。
「そ、そうですね。夫は騎士でした」
「そうか……。もしかして、その父親は生きているのか?」
 カーティスにそう尋ねられ、ルシアは「しまった」と心の中で思った。
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