人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 クズと言われるのは仕方ない。へたれと言われても仕方ない。自覚があるだけ、言い返せない。だが、へたれクズとはいかがなものか。
「それよりもカーティス。お前、いつ、子を授かるようなことをしたのだ? この話をルーファから聞いたときは、信じられないと思って今日まできたが……。あれでは隠し子だと思われても仕方ないだろう?」
 どうやらルーファは、事前に「そうかもしれない」と国王には伝えていたようだ。
「うっ……」
「殿下、陛下にお伝えできないのであれば、私のほうから説明しますが?」
 他人から説明されるほうが恥ずかしい。
「大丈夫だ、自分で説明する」
 今度は酒の入っているグラスを手にして、半分ほど飲み干した。
「おいおいカーティス、大丈夫か?」
「ですから。飲まないとやってられないのです。ルシア嬢……俺のことを覚えていないと……。王族の証でもあるこの目は珍しいですよね? 印象に残りますよね?」
「わかった、わかったから、泣くな。いつの間に泣き上戸になったんだ?」
「父上、俺は泣いてません。泣いてなんか……」
 ぽんぽんと肩を叩かれた。ルーファである。人一人分の隙間があったはずなのに、すぐ隣にルーファ座っていた。
「カーティス殿下。申し訳ない。ルシアはちょっと人の顔の見分けがつかないというか……」
 その言葉に顔をあげる。
「顔の見分けがつかない? それは、どういう意味だ」
 ルーファの言葉に希望を持つ。もしかして彼女は、カーティスの顔を忘れたわけではなく、カーティスの顔がわからないのかもしれない。
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