人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「まさか……」
 そこまで言われれば、いくらへたれクズのカーティスだってなんとなく予想はつく。
「呪術返しを受けたルシアは、人の顔がわからなくなりました。世の中の人間、同じ顔に見えるそうです」
「くそっ」
 カーティスは両手を力強く握った。
「嘘のような話ですが、本当の話です。実際、その騎士にかけられた呪いが、人の顔を区別できなくなる呪い。美醜の判断ができなくなる呪いですから。調べましたところ、二百年ほど前に、顔のよい男が女を弄び、その女性が相手の男にそういった呪いをかけたという文献が見つかっております。それがグロトコの発掘のときに見つかった呪具と関係があったようなのです」
 とある騎士が、顔のよしあしが判断できない呪いをかけられたのだろう。なぜその騎士がそういった呪いを受けるようになったのかは、わからないが。
 その解呪に失敗したルシアが、呪いを受けてしまったという流れのようだ。
「そういうわけでして、ルシアにはカーティス殿下の顔がわかりません。そういった前提で、殿下のお話をお願いします。どうしてルシアとの間にカイルを授かったのか……」
 カーティスはうぬぬぬとうなった。
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