人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
第六章:人の顔が『∵』に見えるようになった理由

1.

 ふかふかのベッドで眠るカイルの寝顔を見つめていた。
 客室といっても王宮の客室であるから、それはもう豪華な部屋である。沈んでしまうのではないかと思えるくらい、やわらかなベッド。他にも品のよいソファやテーブル、鏡台などの調度品が置かれている。
 いつもであればカイルが寝たあとに調薬をするのだが、今日は何もすることがない。だからといって、カイルを部屋において先ほどの会場に戻りたいとも思えない。
 第二騎士団長で第二王子のカーティスは、しきりにルシアにかまってきたし、あそこへ戻れば、また彼がまとわりついてくるのかと思うと、複雑な気分だった。
 彼と共にケラスの町並みを一緒に見渡したとき、心の奥に光がともったような感じがした。たったそれだけのことなのに、不思議である。
 ルシアがいろいろ尋ねても、カーティスは丁寧に教えてくれた。お祭りのために作られた舞台は、とても興味深い。
 彼と話をしていると、少しだけ懐かしい気分に襲われた。もう少し話をしたいとさえ思えた。
 だけど、カイルの父親の話をされるのが嫌だった。いつもであれば、父親が魔獣によって襲われて亡くなったといれば、引き下がるような人たちなのに、カーティスだけはその話を詳しく聞こうとする。
 その場しのぎの設定であるから、深掘りすればするほど、ぼろが出てしまう。
(どうしてカーティス殿下は、カイルの父親を気にしているのかしら……。やっぱり、騎士団長だから?)
 騎士団に所属する者に、隠し子がいたらとでも考えているのだろうか。
(でも別に、相手の人に責任を取れって言いたいわけでもないし。できることなら、今のまま、そっとしてほしいんだけど)
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