ニセモノカップル。
神楽くんに連れられてきたのは、学校の中庭だった。
私たちが中庭に近づくと、今まで談笑していた人たちはそそくさと校舎に戻っていく。

「ベンチ空いたな、座ろうぜ」

いや、空いたというか逃げたというか。

私は黙って、神楽くんの横に座る。
誰もいないことを確認して、私は小さく笑った。
神楽くんが私を見ているのに気づいて、慌てて口元を隠す。

「ん? 嬉しそうじゃん」
「……ごめんなさい。あまりにもはっきりあの三人に言い返してくれるから、なんだかおかしくなっちゃって」
「そうか。あんたが嬉しいなら良かった」
「私のこと、性格悪いって思いましたか?」
「全然。今まで相当ひどいことされてたんだろ。それくらいバチもあたんねーって」

この一ヶ月は地獄だった。両親にも、先生にも相談できない毎日だった。

「それなら良かった。顔がブスで、性格まで悪いと思われたらショックですから」

そう伝えると、神楽くんは不思議そうに首を傾げた。

「はぁ? あんたがブス? どこが?」
「どこがって……全部です。七瀬さんみたいに二重じゃないし、早乙女さんみたいにスタイルもよくないし、美並さんみたいにまつ毛も長くないし」
「あんたのがかわいいのに、変なこと言うんだな」

神楽くんはそっと私のほほに触れて、まじまじと私の顔を見た。
彼の顔がすぐそばにきて、心臓がドキドキと鳴る。

「あの……その……」
「やっぱりブスじゃない。奥二重っていうの? 目も綺麗だし、唇もすげーやわらかそうで――」
「わ、わああああああ!! 説明しないでください!! やめ、やめてえええ!」

体の中心から指先まで全部が熱くなってくる! 私が彼から離れると、神楽くんは大笑いした。

「あはは、なんだよその反応! だけどさ、かわいいってのはマジ。もっと自信持てよ」

何度も深呼吸をして自分を落ち着かせる。
神楽くんってイケメンだし、女の子の扱いに慣れているのかな。
そんなこと言うのは普通恥ずかしがりそうなものなんだけど。
それとも、私が恋愛対象じゃないから言えるの?
……ちょっと待って。それなら今ドキドキハラハラしている私は神楽くんを恋愛対象として見ている?
いや、それはまずいよ! 杏! いくらなんでも……! このカップルは、あくまでもニセモノ!
彼は演技でそう言ってるの!
脳内にいるたくさんの私が会議する。会議は白熱しはじめて、頭が爆発しそうだ。
これは一時的な気の迷い。そう。
絶対そうなんだから。

「そろそろ落ち着いた?」
「は、はい! すいません。それで、昼に集まったのはなにか用事があったんですか?」
「いんや、どうせあいつらがちょっかい出してくるだろうなーって思ってたから。あの感じじゃまだまだ俺らが付き合ってるってことを信じてないな」
「……そうでしょうね」

三人組の態度を思い出す。
神楽くんの目的は、七瀬きららが失恋したことを自覚し、神楽くんを諦めること。

まぁ、この中学校1番の不良(と、勘違いされている)イケメンの彼と、底辺の私が付き合っているなんて信じられないよね。

「それじゃ、どうするんですか?」

彼はニヤリと口角を上げた。
なにか、とんでもないことを企んでいる気がする。

「そりゃあ、俺とあんたがもっとイチャイチャするしかないだろ」

私の頭は急激な熱暴走を起こし、そのまま後ろに倒れるしかなかった。
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