ニセモノカップル。

神楽の家

いつもとは別の意味で、午後の授業に集中できなかった。
七瀬さんたちは怖いし、昼休みのことも気まずくはある。
でも、神楽くんの「もっとイチャイチャする」って言葉はどういう意味?
手を繋いでるだけでも緊張するのに!

授業が終わっても、まだ胸はドキドキしてる。
帰りのホームルームが終わる頃、すでに教室の外には神楽くんが待っている。
目が合うと、彼はひらひらとこちらに手をふった。

七瀬さんたちの席の方から、いや~なオーラを感じるけど、できるだけ気にしないようにして、神楽くんのもとに向かった。

「ごめんなさい、待たせましたっ」
「全然。3組っていつも帰りのホームルーム長くね?」
「それ、3組あるあるです」

ククッと神楽くんが笑う。
……不思議だ。前まで彼に感じていた怖さを……今は感じない。
いや、雰囲気とかは怖いのは間違いないんだけど。

「行くぞ?」
「は、はい!」

彼は当たり前のように私の手を握り、歩き出した。
たくさんの生徒達に見られている。私、今どんな表情をしているんだろう。


靴を履き替えると、神楽くんは小さな声で私に話しかけた。

「なぁ、このあとって時間ある?」
「特に予定はないですけど……」
「今からうち、来ない?」
「はい!?」

パニクった私は手と頭をバタバタとさせる。
神楽くんは呆れたよう苦笑いした。

「あんた、変な勘違いしてるでしょ。後ろ、そっと見てみな」
「……?」

神楽くんの影に隠れて見ると、廊下の隅に、見覚えのある色の髪が見えた。
七瀬さんだ。あとをつけられている……?

「付き合ってるのかまだ疑ってるんだよ。このままあんたを送ったら、あいつらがあんたの家まできそうでやだし。本当にどこまでしつこいんだか。しつこいというか、自分の都合のいいように考えているというか……」

神楽くんが長いため息をついた。
きっと、今までも七瀬さんたちの誘いを断ってきたんだろう。
七瀬さん、ある意味すごい根性だな……。

「……神楽くん、ちょっと待ってください。あとをつけられているなら、神楽くんの家に行ってもまずいんじゃないですか?」
「ああ、それはいい。とっくに家バレしてる」
「ええ……」

彼の今までの苦悩を考えるとぞっとした。

「そういうことなら、とりあえず向かいましょうか……」

七瀬さん、早乙女さん、美並さんの暴走エピソードを聞きながら、彼の家に向かった。
神楽くんは今まで愚痴る人もいなかったのか、色々な表情で私に苦労話を聞かせてくれたのだった。
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