天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「紫紺、青藍……っ、ぅっ」

 私の視界も涙で濡れて、二人の可愛い顔が(にじ)んでいきます。
 あなた達、怖かったのですね。
 なにも知らないのに不安を覚えて、必死に私を追っていたのですね。私の背中を見失わないように、必死に。
 でも私の腕の中で紫紺が(あふ)れる涙をごしごし(ぬぐ)います。

「だめだっ、だめだ。なくのだめだっ……。せいらん、がまんしろ!」
「あうっ、あうっ。うえええんっ……、ちゅちゅっ、うえええんっ、……ちゅっちゅっ、うええんっ……」

 青藍も親指を吸ってなんとか泣きやもうとするけれど、うまくいかなくて嗚咽が漏れています。
 一生懸命泣きやもうとする二人を不思議に思っていると、紫紺が涙で真っ赤な目で私を説得してきます。

「ははうえ、オレもせいらんもなかないっ。ちゃんとつよくなるっ。だからいっしょにいく! ははうえといっしょがいい!! グスッ、うぅっ、なかないから……!」

 私は言葉を失くし、唇を噛みしめました。
 ……ああ、私ほど酷い親はいないでしょう。
 二人が一生懸命泣きやもうとするのは、私がそうあるように望んでいたからなんですね。
 強い子になるために泣いてはいけないのだと、事あるごとに伝えてきたからなんですね。
 だから私と離れまいとする今、泣きたくても涙を我慢しようとするのですね。
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 私は二人の親だと言いながら、二人のことをなにも分かっていなかったのです。
 私は紫紺と青藍の顔を覗きこみました。
 涙で(にじ)んでいるけれど、かわいいかわいいお顔です。

「泣いてもいいですよ」

 紫紺の目元にそっと触れて優しく笑いかけます。

「たくさん、たくさん泣いてもいいですよ」
「ははうえ……」

 紫紺が大きく目を丸めました。
 びっくりして(こぼ)れそうな大きな瞳。かわいいですね、いい子いい子と紫紺の頭を撫でてあげます。
 次は紫紺におんぶされている青藍です。帯紐(おびひも)(ほど)いて抱っこしてあげました。

「あなたの泣き声を聞かせてください。赤ん坊……いいえ、あなたはかわいい赤ちゃんです。赤ちゃんなんですから、たくさん泣くものですよね。赤ちゃんは笑っていても泣いていても可愛いのです」
「う、うええええええん! ええええええん!」

 両腕に収まる小さな体。
 青藍が泣きながら私にぎゅっとしがみついてきました。小さな手が私を離すまいと着物を握りしめて……。ごめんなさい、たくさん怖い思いをさせました。
 いけませんね。私はすべてを捨てようとするあまり大切なものを見失っていたのです。
 紫紺と青藍はこんなにも私を必要としてくれているのに。
 泣いている紫紺と青藍を見ていると私まで涙が溢れてきます。
 行き交う人々が不審(ふしん)そうに私たちを見ていましたが、今は気になりませんでした。
 こうして泣いて、たくさん泣いて、私は涙を拭って紫紺と青藍を見つめます。
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