天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「……あなたが紫紺に望むほどの強さとはどれくらいのものですか? 紫紺はどれだけ頑張ればいいのですか?」
「そうだな、紫紺には俺や離寛に並ぶほどの力を得てもらいたい。もちろん鬼神討伐にも連れていくつもりだ」
「えっ!?」

 思わず大きな声を上げました。
 驚愕に黒緋を凝視してしまう。
 鬼神討伐は子どもを作る条件でしたが、まさか紫紺を連れていくなんて思わなかったのです。

「ま、待ってください! 本気ですか!?」
「俺も一緒だから心配はいらない。とりあえず鬼神と渡り合えるくらいには強くなってもらう」
「そ、それは承知しかねます! 紫紺が強くなるために鍛錬が必要なのは分かりますが、鬼神と戦わせるなんて危険すぎます!」
「危険は承知だ。だが戦ってもらう」
「そんなっ……」

 言葉を失いました。
 そして気づいてしまう。
 紫紺を強くすることへの黒緋の思い入れが尋常ではないことを。それは親から我が子に対する『強くなってほしい』『元気で丈夫な子になってほしい』という一般的な愛情とは違っているのです。

「黒緋様、あなたはいったい……」

 そこまで思い入れるほどのなにかがあったのですね。
 私は黒緋のことを陰陽師ということしか知りません。過去になにがあったのか、どうして強い子どもを望むのか知りません。
 黒緋はいつも穏やかな雰囲気を(まと)っていて、相手が誰であろうと寛大(かんだい)で優しい人です。
 でも、なにかがあるのですね。
 黙り込んでしまった私に黒緋は「すまない……」と言葉を続けます。

「許してくれ、鶯。俺は後悔を知っている。守れなかった絶望を知っている。もう二度と繰り返したくないんだ」
「黒緋様……」

 黒緋の優しい眼差しの奥には灼熱(しゃくねつ)が宿っているのでしょう。それは慟哭(どうこく)に似た悲しみ、憤怒(ふんど)、なにより切ないほどの後悔。それゆえの覚悟。
 黒緋は私と紫紺を静かに見つめて、でもそれ以上なにも言うことなく座敷を出ていきました。
 私は何も言えないまま視線を落とし、ただ紫紺の寝顔を見つめていたのでした。




< 47 / 141 >

この作品をシェア

pagetop